違和感と向き合い本質を追い求める中で辿り着いた”昇華道”〜昇華道家岡村友利絵さん〜

福岡県で花屋を営む昇華道家の岡村友利絵さん。様々ある花屋の仕事のなかで、友利絵さんが行うお花のレッスン”昇華道”に心惹かれた。一般的なお花のレッスンは講師が作ったサンプルを見ながら、参加者は同じものを作ることが多い。しかし”昇華道”は違っていた。

「花と器をずらっと並べたところから、自分で花を選び器も自分で作ってもらいます。サンプルも作りません。レッスンに来てくれた人が、自分の内側にあるものを表現するという事を私なりに伝えています。私がサンプルを作ってしまうと答えになってしまうので、そうではなく全部がその人から生まれたお花が見たいと思いやっています。わざわざ来て下さったのだから、私と集まった人達にしかできないものを皆で作りたいです。出来上がったものを皆で見て、それも良いね、これも良いねと共有できるものがやりたくて。このお花のレッスンをやっていると自分自身すごく楽しいです。」

しかし最初から今のようなレッスンができたわけではなかった。

「こういうレッスンは無理だと思っていました。サンプルがないなんて絶対クレームだと思っていましたから。でも参加者の皆さんがとても喜んでくれて続けていたら形になり出して、最近はそれがスーッと通るようになってきました。私はこれをやりたい、これをもっともっと広めていきたいと思っています。皆にセンスがあると伝えていきたいし、自分のセンスを信じてほしいです。」

続けているうちに段々とできるようになってきたのですね。

「昔の私がサンプルないの?と言われたら、”やっぱり私が考えるものはダメだったのかな”と思ってしまったはずです。今は、サンプルないんですよと笑いながら受け止めて、できますよと伝えられる図太さがでてきました。私が教えられるようになったのは、自分を少しずつ信じられるようになったからだと思います。前は自分を信じられている人って、自信に溢れて”私すごい!”と思えている姿をイメージしていました。今はそうではなく、私で良い、私はこれが良い、だからこれもできるよね。あなたもできるよね。という感覚になれました。よく言いますよね、自分を信じられないと誰も信じられない、信じてもらえないと。自分を信じられるようになったから相手も信じられるし信じてもらえる。それができるようになって形になってきたのだと思います。」

昇華道をする皆さんの反応はいかがでしょうか。

「最近素敵だなと思ったのは、2年近くずっと来てくれている方がお花を刺した後に”すごくいい、めちゃくちゃいい”と自分の花を見て仰っていたんですよ。そこには、私の花どう?すごいでしょ?というようなエゴが全く無いんです。それが私にとって本当に花を生けるということだと思っています。」

「お花をいける時にかっこよく生けなくてはいけない、すごいと言われたら嬉しいという感情が生まれる時がありますよね。私にもありました。でもその感情を全部外すことが1番良いお花を作ることになると実感しています。絶対に謙虚さがないと花とは交われない感覚があります。もし私がお花に対してお前をなんとかしてやるよという気持ちだと花が生きずに死んでしまいます。自分が試されている感じがしますね。こちらが不純だと花の純粋なパワーに負けるというか。そこでいくら足掻いても、誰の心にも響かないお花が仕上がるだけになってしまいます。花には伝わってしまうので嘘がつけない、降参するしかない。それが面白さでもあるので体感してほしいと思っています。」

花のパワーはすごいですね。

「花は私の手が加わらなくてもそのままで完璧です。私が完璧にするのではなくて、そのままで良いのが花やないですか。自分はひまわりですと生まれて咲くことがひまわりの宿命だから私の手なんていらないのだけれど、そこに私が手を加えさせてもらっているという感覚になれることがすごく楽しいです。」

花を通して様々な仕事やレッスンを続けていたが、友利絵さんの中にはある違和感があった。

小さい頃から今まで、人間関係や仕事でも愛のあり方についても、自分の中に何か違和感がずっとありました。仕事だったら本当の接客って何、これが本当のレッスンなのだろうか、花屋や花の本質って何だろうという風に全部に対して一般的な考えと自分の中に違いがあって違和感を持ってしまうというか。でもそれは私の勘違い、考えすぎ、繊細すぎるからだと自分の中から排除していました。それをもつ自分がおかしい、周りが言っている事ができない私が悪いと決めつけていました。早く仕事をしないといけないと自分に言い聞かせて、違和感と向き合うことを許せていませんでした。でもどうしても無視できなくなって、違和感と向き合うことを自分に許し出したんです。」

どのように許していったのですか。

「最初は無理矢理ですよね。私はこんなことをしていていいのかなと思いながら、ちょっとゆっくりしてみようとか。お店もせっかくグリーンに囲まれて日当たりもよくて空間も好きなのに、仕事をやらなければいけないと目をふさいでいましたからね。良いんだよと無理矢理許して余裕ができたことで、ヒントが段々と集まってきて更に気づきが生まれたり数秘術と出会えて自分の中にあった違和感が明確になったりしていきました。」

長年違和感を抱えながらも、花屋の仕事で貫いてきたものがあった。

「お客さんが言っている情報の中で、本当に大事な情報は何だろうと考えながら聞くようにしています。例えば初めてご来店された時に、ここはどんな花を作るお店なんだろう、贈った相手は喜んでくれるかな、変なお花だったら自分はどう思われてしまうのだろうと不安な気持ちでいらっしゃったとします。その不安から強い口調になったり、見栄えを良く派手にして欲しいというオーダーを頂いたり、お客さんが贈り物の本質を見失っていることがあります。そういう時もお花を贈る相手が喜んでくれたら良いという本質の気持ちを思い出して帰ってもらえるようにしていました。フラットに接してお客さんにもフラットに戻ってもらえるような接客を心がけています。そうやってお花を贈って相手も喜んでくれたら、次からはフラットにきてくれます。」

作る前の接客から大切なのですね。

「なにもかも相手から言われるがままではなくて、贈り物の本質を伝える、本質で投げ返すようにしていました。相手をどうにかしてわからせようという気持ちは無いのですが、私のお花は本質で返すことが自我だと思います。本当に大切なことをこれかなと投げかけることだけは自分を通していましたね。」

現在レッスンに来ているのは元々お花を買いにきてくれていたお客さんだった。

「お客さんが来てくれた時にお花の注文だけだと短時間のやり取りで終わってしまいますよね。私はそこにすごく違和感や物足りなさを感じていました。本当のお花を作りたいから、そのためにはお客さんとのコミュニケーションもより深くしていきたいという思いがありました。」

そこで始めたのが昇華道だった。

「私が思う本当のレッスンができたら、お客さんと深く繋がれる気がしてやってみたかったんです。実際に長くレッスンに来てくださっている方とは、まさかこんなに深い話をする仲になるとは思いませんでしたねと話すくらい色々な話をしています。最初から来てくれている方には、レッスンの事を上手く説明できていなかったので内容というよりも、”なにか”を直感的に感じてきてくれている方が多いように思います。お店に来たときも”なんか”ここの空気は違いますねと言ってくれます。以前の私はこれがこうだから違うというのがないとダメだと思っていました。でも最近は”なんか”違うの言葉の重みもわかってきて、ものすごいことなんだと実感しています。その”なにか”を感じてできた繋がりから生まれるものが私の糧になっているし、こういうことがやりたかったんだと実感しています。」

「私の人生がずっとそうだったから今切り替えているのですが、接客もお商売も人間関係も自分の身を削って、私の全部を投げ打って奉仕するものだと思っていました。でもそれは違うと気づきました。自分を生きていなかったんだと思います。私が私であることが1番力を発揮するはずなのにそこが欠けているから、色々なことが上手くいかなかった。周りの環境や人がどうこうという問題ではなくて、自分がどうしたいのか。最近はお客さんと深く話をさせてもらったり逆にお客さんから教えてもらったり。そういうお互いを想い合えて一緒に循環させる繋がりを大切にしていきたいです。」

話を聞いていると今までの出来事全部が繋がり、昇華道が生まれているように感じた。

「昇華道は道だから何かゴールに向かってするというよりも、人それぞれのゴールがあってそのゴールに向かう間の自分のあり方をメンテナンスする場所のようになったら良いなと考えています。その場しのぎのものではなく自己発電できるように鍛錬をするものとしてあるといいなと思っています。私は皆んなの道をみたいと思うんですよ。もし私が作り上げるんだと力んで私のものだと握りしめていたら言えなかったと思います。でもそうでは無いから昇華道いいよねと客観的に言える。昇華道いいよねって皆が言っているのをみたい、皆が昇華道家になれると思っています。ただ脇道に行って迷っている人がいたら、こっちだよとか、この道めっちゃいいねと言いながら保護するような感覚ですね。それができたら面白いだろうなと思っています。」

迷ってもいい場所ですね。

「そうです、そうです。迷ってなんぼです。完成させようとするのを許さないというか。これを選んだらちょっと生けるの大変そうと思って今やめたでしょう?とか、こうしたら楽そうだけれど本当はこっちに惹かれてるんでしょとか、見ているとわかるから言いますね。でも今日はちょっと楽に楽しみたいと言う時はもちろん良いよと言います。」

少しいたずらっ子のような笑顔で話す友利絵さんはとても生き生きして見えた。

「不正解があるとすれば、自分と向き合えていない花を生けた時が唯一の不正解かなと思います。見ているとわかるんですよ、本人もわかる。そういう時はお茶飲みましょうと言って、まぁまぁ一旦落ち着きましょうかと話しながらね。」

等身大の友利絵さんのままで昇華道を楽しんでいる姿が印象的なインタビュー時間だった。

【友利絵さんのInstagram】
https://www.instagram.com/yurie_flowers44/

【後書き】
インタビューをしていると、伝わりやすさを考えて1つ大きな転換点のようなものや具体例が欲しくなる時があります。しかし何か大きな1つというよりも今までの出来事の1つ1つが繋がって今を作り未来に繋がっていくということを思い出させてもらった時間でした。そしてインタビュー中に出てきた”なんか違う”というワードはnazekaの由来でもある「ことばにしたいけれどことばにできない でも間違いなくある ”あっこの人”という感覚。」と近いものを感じました。もちろんインタビューで分かりやすく伝えられたらと思う一方で、実際に会ったり話したりしないとわからない感覚はあると改めて感じた時間でもありました。そこを感じてもらえるようなイベントなどを企画できたらとぼんやり思っておりますので、お楽しみにして頂けたら嬉しいです。いつもnazekaをご覧頂きありがとうございます。

【インタビューサイトnazeka】
Instagram:https://instagram.com/nazeka.site?igshid=YmMyMTA2M2Y=

インタビュアー・ライター・写真:Keiko Saito